「新しい商標」とは、音、動き、色彩のみ、香り、味、触覚(肌触り)などからなる、伝統的にこれまで日本では一般に「商標」とは認識されていなかった商標をいいます。「新商標」「新しいタイプの商標」「非伝統的商標」ともいわれます。
日本の商標法は、静止した文字・記号・平面図形・立体的形状やこれらの結合による商標、そして、それに色彩を組み合わせた商標の登録だけしか認めてきませんでした。これまで、新しい商標は、日本の商標法で商標として取り扱われず、商標登録制度による保護を認められていなかったのです。
しかし、「商標」というのは、事業者が自分の商品等を他人の商品等と区別し、自分の商品等の出所が同じであることを示すための目印ですので、そのような目印になるのであれば、現行法で保護されている静止した文字・図形等でなくても「商標」として機能する余地があります。たとえば、次のような場面を想像してみてください。
①映画の冒頭で荒波が岩にどどーんとぶつかり弾ける映像が出てきた。
②お菓子のテレビコマーシャルの最後に「ピポ・ピポ」という音が流れた。
③写真フィルムのパッケージが「オレンジに近い黄色」をしている。
①は大体の人が「東映の映画かな?」と思うはずです。②も一定以上の歳の人であれば、「森永のお菓子?」と思うでしょう。③も「KODAKのフィルムかな?」と思う人が多いのではないでしょうか(写真フィルム自体、最近はあまり使われませんが)。
このように、動く画像、音、色彩のみ、といったものであっても、ある企業の商品やサービスの目印、すなわち、「商標」として機能しうるのです。
米国やEUなどでは、日本に先行して、これらの新しい商標が登録を認められていました。アジアでも台湾などが一部の新しい商標の登録を可能としていました。2007年には、韓国が動き、色彩、ホログラム等につき新しい商標の登録を認めるようになり、2012年には保護範囲を広げるための法改正をさらに行いました。
このような流れを受け、日本でも、以下の種類の新しい商標につき広く商標登録を認める法改正をし2015(平成27)年4月1日から施行しました。
○音の商標、
○動きの商標、
○色彩のみの商標、
○ホログラムの商標、
*ホログラム・・・見る方向によって画像が変わる絵
(よくお札やクレジットカードに使用されているもの)
○位置商標
*商品のある箇所が一定の形態(形状・色)をしていることで、
商品等の出所が同一であることを表す商標
例:ヘッドとシャフトの境目に丸いリングが取り付けられている
キャラウェイのゴルフクラブ(リングの位置)
歌詞と音楽が一体になった音の商標、動きの商標、ホログラムの商標、形状等に特徴のある位置商標は、すでに多数商標登録を認められています。しかしながら、今のところ、音のみの商標で登録を認められたのは2件、色のみの商標で登録を認められたのは4件にとどまります。これらについては、一般の「商標」として消費者等に受け止められておらず、また、何でも商標登録、つまり、特定人に独占権を与えてしてしまうと、他人による音楽の演奏や商品パッケージのデザイン等に支障を来すことも考えられることから、商標が商品等に使用されて相当有名にならないと登録を認めない制度設計になっているためです。
2018年4月20日 弁理士 竹原 懋
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